在宅医の泣き笑い診療録

宮崎県都城市の高齢者住居を抱えるクリニックで、理想の在宅医療を模索する新米在宅医の悲喜こもごも

エビフライ・ララバイ

誘われたので勉強会に出席してきた。勉強しなきゃと思っていたので、これはラッキーと意気揚々と、ノートなんか取りながら勉強会に参加していた。

 

思いがけず、その勉強会は衝撃的だった。きっと、忘れえない勉強会になった。何が衝撃的だったか。それは、エビフライだ。

 

講師は、端正な顔立ちの、そりゃもう僕エリートですもん、という感じの先生だった。きっとお家柄も、お育ちも、非の打ち所もないような、つるっとした感じ。御略歴も素晴らしく、京大卒から始まり、スライドに書ききれないほどの文句ない経歴と専門医の数。う〜ん。すごい。

 

お話も上手で、とても面白かった。面白かったのだ。そう、あの時までは。あの時、このつるっと先生が言い放った一言で、僕は意気消沈、頭真っ白、僕勉強なんかせんもんね〜、どうせ生まれも育ちも悪いし〜の無気力人間に戻ってしまった。

 

「え〜大変、下品な例えになって恐縮ですが、例えるならエビフライのような・・・」

 

ちょっと待て〜!!エビフライは下品なのか?!世間では、上流階級では、エビフライは下品なのか?!僕は今まで、エビフライは上品の最上級くらいに存在していると思っていたぞ!!子供の頃は、親が財布に無理して作ってくれたエビフライが黄金に輝いて見えたし、エビフライを食べた日の夜は「もうこのまま死んでもいい!」と思っていたぞ!!自分で稼ぐようになっても、エビフライはやっぱり贅沢で、頼む時は緊張して、「え、え、エビじゃなくてトンカツ定食」と言ってしまって、高嶺の華のエビフライに声もかけられなかったのに。昨年、院長先生がご馳走してくれた特大エビフライ一皿3本を、誰ともわけずに一人で食べられた時に、「あ〜僕は今間違いなく人生の頂点にいるな〜」と込み上がってくる涙をこらえたのに。

 

エビフライが下品?!!

 

価値観というのは様々な要因で変わってくる。日本にいると麻痺してきて、ヨーロッパもアメリカも世界中が日本人と同じような価値観を思っていると思い込んでしまう。報道を見ていても、日本人の価値観でしか考えてないニュースがほとんどだ。しかし、実際は、価値観は本当に多種多様だ。ヨーロッパと言っても、ロシアとイタリアでは全く違うし、それは地域でも、国でも、街でも、個人のレベルに至るまで、まさに十人十色だ。

 

わかっている。わかっちゃいるけど。

 

エビフライが下品と思っている人がいたなんて。。。。

そんな人とは一生、どう頑張っても、たとえ医学の話でも噛み合わないだろうと、僕は、暗い会場で絶望していた。

 

エビフライ様。あなたは、たとえ京大卒のつるっと先生には下品と言われても、僕にとっては、髪が長かった頃の夏帆さんよりも、20歳の宮沢りえさんのサンタフェよりも、プレイボーイの袋とじのグラビアアイドルよりも、こっそり隠してあるAVの綺麗な女優さんよりも、ずっとずっとずっと高嶺の華なのであります。