在宅医の泣き笑い診療録

宮崎県都城市の高齢者住居を抱えるクリニックで、理想の在宅医療を模索する新米在宅医の悲喜こもごも

ナースキャップ復興期待論

なんとも時代遅れの話を蒸し返すのだが、おじさんはどうしても言いたいのだ。

 

いまから遡(さかのぼ)ること10年くらいだろうか、日本の病院からナースキャップが忽然と消えた。「忽然」とは言い過ぎだろと今の若者は思うかもしれないが、「忽然」でも「突如」でもいいと思うくらいの勢いでナースキャップは消え去った。ナースの歴史以来、看護師の頭上で輝いていたキャップが、あっという間に消え去ったのだ。

 

ナースキャップが廃止に追い込まれた理由は、表向きは、ナースキャップにはばい菌がたくさんついていて、感染の原因になるから、ということだったようだ。実際は、ナースキャップをあちこちぶつけたり、点滴に引っ掛けたり、とにかく危険だし、邪魔だし、鬱陶しいという看護師さんたちの不満が募ったあげくの結果だったようだ。

改めて調べてみると、ナースキャップはコーンスターチなどの成分が含まれた洗濯のりでパリっと仕上げられており、そのでんぷん等の成分が細菌の培地になるだとか、そもそも洗わないものだから不潔だとか、培養するといろいろな細菌が検出されるだとか、そういうまことしやかなお話がたくさん出てくる。看護研究も多少はされているようだが、科学的検証に耐えうる論文やデータは見つけられなかった。看護研究は、残念ながらいまでもそうだが、ツッコミを入れたくなる内容がとても多い。

 

クリーニングでのり付けされるのは、ナースキャップに限らず、ユニフォームも医師の白衣だってそうだし、手術室の作業着だって同じだ。それらは調べたの?そもそも、滅菌されていない限り、どんなものだって培養すれば細菌はでるんじゃないの?百歩譲ってナースキャップだけばい菌が多かったとしよう。さて、そのばい菌たちはどこからやって来たのかい?普通に考えれば髪の毛だよ。その髪の毛の培養はしたのかな?髪の毛からばい菌が検出されたら、看護師はみんな坊主になるんか〜い!!


そして、ナースキャップからの落下細菌が感染の原因になるというなら、ナースキャップありの場合とナースキャップ無しの場合で、何らかの感染率が下がったというデータが必要なんじゃない?ナースキャップが廃止になって10年くらい経つけど、感染症が劇的に減ったという話はきかない。

 

そして、最も問題なのは、ナースキャップの不要論が、とにかく看護師の間だけで議論されたことだろう。ナースキャップの必要性について、看護師もしくは医療従事者を対象にしたアンケートの結果は残っている。しかし、患者さんを対象にしたアンケートは見つけられない。あるのかもしれないが、なかなか見つけられない。そう。大事なことを忘れている。患者さんの意見は聞かれようともせずに廃止になっているのだ。

 

これこそが大問題だ。看護師が忌み嫌う、患者不在の医療の結果がここにある。

 

ナースと聞いて、あなたはどんな姿を想像するだろうか。白衣のワンピースを身にまとった愛くるしい笑顔の上には白いナースキャップが輝いているのではないだろうか。実際にGoogleで「ナース、コスプレ」で画像を検索すると、ずらりとナースキャップをかぶった姿の写真が並ぶ。世の中の人はまさにこれを想像しているのだ。あー、わかっている。わかっている。おかしなことを言っているさ。だんだん本気になってきた自分にも驚くが、改めて言おう。

世の中の普通の人たちが想像するナースは、ナースキャップをかぶった白衣の天使なのだ。

そもそも、ナースキャップは教会のシスターのほっかむりに原点がある説が有力なようだ。教会のシスターは神と結婚した天使のような存在だ。はじめからナースキャップには天使要素が内包されている。ナースキャップを冠った優しい笑顔は、天使の笑顔なのだ。患者さんが求めているのは、まさにその天使の笑顔ではないだろうか。ナースキャップの有無で患者さんの満足度調査をしたら、「ナースキャップあり」の方が圧倒的に満足度は高くなるだろう。満足度が高ければ、死亡率も、在院日数も、投薬量も、離床率も改善するのではないだろうか。そうすれば、医療費も削減でき、医療費が削減出来れば消費税を10%にあげる必要がなくなり、膨大な医療費にあえぐ日本経済を救うことができるかもしれない。そうなのだ。

 

ナースキャップの復興は日本経済を救うのだ。

 

「何言ってんの?!バカじゃないの?!」と思っているのナースのあなただって、看護師になろうと思ったときのイメージにナースキャップはあったでしょう?戴帽式で、ナースキャップをはじめて冠って感動したんじゃない?そうなのだ。なにがそうなのかわからないが、ナースキャップがあったほうが、絶対にかわいいのだ。「夢を叶えて看護師になったけど、夢と全然ちげ〜よ、白衣の天使ってなんだよ。ケッ!!」と酒を煽りながら世を儚んでいるあなたの化粧乗りの悪い二日酔いの顔だって、ナースキャップで天使の笑顔に様変わりするのだ。ジェダイがフォースを信じるように、聖闘士星矢が小宇宙(コスモ)を感じたように、いまこそナースキャップの力を信じよう。


僕のいるクリニックでは、雑滅危惧種のナースキャップがある部署に限って生き残っている。僕は、ナースキャップ科のナースのボスに、お願いだから廃止しないでくれ、と土下座をせんばかりの勢いでお願いをしている。心強いことに、当院では、師長さん自らナースキャップをかぶり、今日も天使の笑顔だ。

 

看護師さん、絶賛募集中。ナースキャップを冠って仕事出来ます。